「ねえグリーン」 「……なんだよ」 「結婚しようよ。」 は、とキャラメル色の瞳が見開かれる。 それも一瞬のことで、幼なじみはすぐさまあきれたような溜息とともにがっくりと頭をうなだれた。 毛足の長いつんつんした髪が揺れて、つむじと向き合う形になった。そよ風が草花を撫で、緑の絨毯が波打つような晴天の午後。 「いきなりなんだよ、それ」 男同士は結婚できねーって! 数拍間を置いたのち、顔をあげわかりきったことを言うグリーンの手を取る。ほんの少しだけたじろぐ彼。 なにしてんだよ、といぶかしげに問う声を無視して、そっと薬指に唇を落とした。ぴくん。自分のものより少しだけか細い指が跳ねる。息をのむ音がして、そちらに視線を遣れば、なんとまあ彼の顔の赤いこと。 「顔赤いよ」 「うるせえ」 「ね、結婚しよう」 僕らが結婚出来ないことぐらい、とうの昔に知ってしまってる。グリーンくんは男の子だから結婚できないのよ、というお母さんの言葉がよみがえる。 だけど、だから。チープなままごと遊びでいいんだ。僕らが小さなころから変わらないはらっぱで、しろつめ草の指輪を作って、永遠の愛の誓いを立てようよ。 たった二人の結婚式。それぐらい、いいでしょう? 最後に手を繋いだのはいつだっただろう。いつの間にか大きくなって、お互いをライバル視するようになって。 そして再び今、こうして僕は彼の手を強く握っている。だいすき、と幼い表現で繰り返していたのが、愛してる、に変わったのはつい最近。 ねえ、グリーン。愛してるよ。そう息を吐くように呟くとグリーンは、うろうろと視線を迷わせたすえにそっぽを向いた。 覗きこもうとした僕の視線から逃れて、繋いだ手をゆるゆる握り返して。ぽそり、聞こえるか聞こえないか程度の微かさでこう言ったのを、僕は聞き逃さなかった。 「俺も、あいしてる」 お前が世界で一番強くなったら、“結婚”してやってもいい。 いつもと変わらない生意気な態度。しかし、ちらちら垣間見える耳までが桜色に染まっていて、それがとても愛おしかった。
アンダンテ・ レッドがチャンピオンになって、二人でマサラへ戻ったくらいの話 |