ぷくん、と小さな泡がうかんで、消える。ひとつ、またひとつ。 グラスを結露させていた、冷たかったソーダ水は徐々に真夏のけだるい温度にあてられて、すっかりぬるくなってしまった。 「注ぎなおしましたから、またあたたまる前に飲んでしまってくださいよ。」 デスクに向かって黙々と仕事をしている上司の斜め後ろに立って、それだけ言う。 反応がないのはいつものことだ。この人は何かに没頭しているときは周りの音も聞こえないらしい。 空調が壊れてしまい、むしむしとした空気がこもる執務室で仕事をするこの人を哀れに思って、 冷たいソーダ水をこの私がわざわざ街に出向いてまで買ってきてさしあげたというのに。 カリカリとペンを走らせる音しかしない部屋に、ただただ沈黙が重い。したっぱたちは短い夏期休暇でおらず、何も言いつけられていない私も特にすることも無い。ため息をひとつついて、そのまま部屋を出ていこうと踵を返すと、不意にキイ、と回転椅子の軋む音がした。 「ランス。」 静かな空間でまっすぐに耳に届いたその声に、そわりと肩をすくめて振り返る。 淡いラムネのような色彩の瞳が私を捉えて、 「私はレモネードのほうが好きなんです。」 そう、有無を言わせないというように微笑んだ。 では次はレモネードを買ってきます、と返し、私はそのまま部屋を出た。 廊下を歩きながら、彼が口をつけずにぬるくなってしまったソーダ水のグラスをあおる。 炭酸の抜けきった液体が喉の奥を通るたびに、胸の奥がぱちぱち音を立ててはじけているようだった。
ソーダ水と |