「うん、いい天気」 抜けるような蒼天と雲の白さのコントラストが眩しい。すでに夏の暑さが顔を覗かせていた。 吹き抜ける風はまだ生ぬるく、梅雨入り前のそれらしさも残している。穏やかで過ごしやすい午後。僕は久しぶりに自転車を降りて相棒たちとのんびり草むらの脇を通り過ぎようとしていた。 ふと、隣を歩いているエンペルトがぴくり、何かに反応した。 「どうかした?エンペル、」 ト、の音を言い終わる前に斜め前の草むらから飛び出した、猛スピードでぶつかる何か。エネルギーはそのまま僕に衝突し、倒れ込んだ僕の上に何かが覆い被さった。 あたたかい、息遣いも感じる。懐かしいこの感じ。 強かに頭をぶつけた痛みで閉ざされた瞼をゆっくり開くと、 「やっぱり」 「いてー…なんだってんだ、よ、 ってコウキ!久しぶり!元気だったか?強くなった?バトルしようぜ!!」 「そんなにいっぺんに喋らないでよ」 予想通り、せっかちで走り回ってはよく人にぶつかる僕の幼なじみだった。 僕に覆い被さったまま顔を近づけて、いつものマシンガントークが始まる。いい加減どいてくれないかな、重いし暑い。 まだ話し続ける彼の言葉を遮って口を挟む。 「ジュン、おも」 「あーそれにしてもさすがに走りすぎて疲れた!なんかもう動きたくないし、コウキ、ちょっと借りるな!」 逆に言葉を遮られた。人の話を聞け…って、何してるんだこの子。 ごろりと僕の(情けないながら)薄い胸に頭を預けて目を閉じるジュン。まさかとは思うけど、このまま寝たりしないよね。 「おやすみー」 そのまさかだった。 いくら幼なじみで誰より一番一緒に居て、気兼ねのない関係とはいえ、僕だって先に行く用事がある。 困るんだけど、と言おうとした瞬間、彼は僕の心を読んだようにぱちりと瞳を開けて、上目遣いで笑った。 「いつも悪いな。ま、コウキもたまには休んだ方がいいって。 こんないい天気の日くらい」 それだけ言ってまた目を閉じる。 たまには休んだ方が、なんて誰が僕を忙しくさせてるんだ。 文句のかわりに頭でもこづいてやろうと思ったけど、知らない間にはやくも眠りに落ちた彼が、あまりにも幸せそうな顔だったのでやめておいた。 (不覚にもどきっとしたのは多分この暑さのせい、だ) ジュンの髪と草むらを揺らす風は、僕の頬と同じように熱を帯びていた。 栗花落の前に (そして雨がくる) |