劣等感を感じるのは大嫌いなんだ。 琥珀色の瞳を薄い掌で覆い隠して、歪んだ表情を彼に見せないようにして。吐き出すように僕は怒鳴っていた。掌の下で、彼の表情筋が緊張するのがわかった。 ひゅうと息をのむ音が耳に届く。はっきりとは見えなかったけれど、 彼の口が僕の名前を形作ったような気がした。 (わかってる) (こんなのはただのやつあたりだ、って) 彼が僕の手を引いたり、自分が好きなはずのお菓子を残しておいてくれたり、そんな優しさを見せるのは、何も自分が優位であると感じたいからではない。わかりきったことだ。それを歪曲させて受け止めた僕が悪い。 わかりきったこと、なのに、どうしてもどろどろと醜いこの感情を抑え込めなかった。 「ジュンは何も悪くない」 独り言のような微かさで、そっと耳元に言葉を落とす。彼の肩の力が抜ける。と同時に、自分自身の腕もだらしなく体側で揺れた。 掌で遮断されていた彼の瞳が僕を捉える。そばで雷でも落ちたかと思うほど見開いて、ほんのすこし目頭に滴を溜めて。言葉は発することなく、ただこちらをじっと見つめている。どうしてそんな顔するんだ、君は何も悪くないって言ってるだろう。 せっかちで人の話を聞かない彼に対して、昔よくそうしたように、肩を掴もうとした。瞬間、びくりと細い体を丸めて身を守るような仕草。 ああ、彼はきっと僕を怖がっている。こんなにも感情をあらわにする僕を見せたのは、おそらく生まれて初めてのはずだ。驚くのも無理はない。 「……ごめ、コウ、キ」 鼓膜を微弱に震わす程度の小さな声だった。彼が謝る必要などないのに。 彼なりの優しさを、自尊心が高く精神的に弱い僕が受け入れられなかった。ただそれだけの話。 だからそんな目で僕を見ないでくれないか。 これ以上君に優しくされるのはまっぴらごめんなんだ。 (どんどん君を恋う気持ちばかり強くなる) (そのたび膨らむこの劣等感はなんだ)
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