「コーウキー!」

ドアの外から大声で幼なじみの名前を叫ぶ。部屋にかかったプレートは未だ「就寝中」だ。 今日は日曜日。天気も申し分なく、遊ぶにはもってこいだった。
朝食をろくに噛まずに胃に流し込んで、通い慣れたコウキの家に走ったものの、この時間になってもまだコウキは起きてきていないらしい。ちょうどいいから起こしてきて、とおばさんに頼まれ、二階に上がり今に至る。

「……コウキってああ見えて低血圧だよなー。」

にへっと笑ってドアを開ける。普段は僕に無断で入らないでよ、と釘を刺されているが、今日はおばさんから起こすよう命を受けているのだ。文句は言わせない。
きちんと片づけられた部屋の真ん中、ベッドの上で幼なじみは布団にくるまって繭をつくっていた。遮光性のカーテンはぴったり閉じられ、薄暗い中でもわずかに覗いた真っ黒な髪は確認でき、また密かに笑う。

「朝だぞコウキ、起きろよー。いい天気だし外で遊ぼーぜ」

頭のあたりを予想して掛け布団越しに声をかけた。返事はない。静かな空間、かすかに聞こえる呼吸の音に合わせて丘の形をした布が上下するだけだ。
今日は結構しぶといな。ジュンは一度深く息を吐いて、先ほど叫んだよりもまだ大きな声で起床を促した。

「おーきーろーってば!!ご飯も出来てるってさ!」

同時に白いかたまりを揺さぶる。最初は控えめに、だんだん容赦なく。
そろそろ布団引っ剥がしてやろうか、なんて考え始めたころ。

にゅうと布団の隙間を割いて、人間の腕が出てきた。
一瞬ぎょっとして、紺色のパジャマの袖を確認する前に襟を掴まれて体勢を崩す。気付いたときには、ジュンは顔だけ布団の中に引きずり込まれていた。
心地よい熱のこもったベッド。やっと思考が追いつくと、目の前にはいつもの幼なじみの顔。息がかかるほど近くで、コウキは不機嫌そうに言った。

「……ジュン、うるさい。聞こえてるよ」
「め、目ぇ覚めてるならさっさと起きりゃいいじゃん」

僕は覚醒してから活動し出すまでに30分はかかるんだよ。
不遜な態度でコウキがため息をついた。前髪が揺れてこそばがると、それを面白く思ったのか、息を吹きかけてくる。顔を背けて避けようとして、狭い布団の中で暴れると、些か体力を消耗した。

「くっ……は、こそばいっつーの!いい加減にして起き  、」

吐き出そうとした最後の一文字は、口を塞がれたことで行き場をなくした。
柔らかく、少し自分のそれより冷たいコウキの唇が重ねられている。急に引き寄せられ、不自然な角度にさせられた首の筋が痛むことなど、気にしている場合ではなかった。

「ん、!? ふ……ッ」

呼吸が続かない。息が苦しい。なおも離れる様子のない幼なじみの唇を軽く噛んだ。
ぴく、と反応してようやく解放される。

「なんっ、なんなんだよ!いきなり何こんな、」
「だからジュンうるさいって」

わたわた慌てる自分をよそに、コウキはしれっとした顔で噛まれた下唇を舐めた。その行為がなんだか恥ずかしく感じて、カッと顔が熱くなった。微笑を浮かべたコウキの指がジュンの頬を掠めていく。

「嫌がるジュンの顔ってすごく可愛いからさ、つい」

ごちそうさま。
くすくす笑うコウキを見ていられなくて、布団から顔を抜き出した。
腹いせに二、三回思い切り殴ってやる。

「いーから起きろ!!とっとと起きなかったら罰金な!」


勢いよく開けたカーテンの外から降る日差しと、張り上げた声が部屋中に満ちた。



サンデーモーニング

(朝食はもうすこしあとで!)