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ちらちらとまぶたの向こう側が明るくなる。
血管を透かした赤黒いだけの世界が、ひどく目障りだと思った。それもときどきふと翳る。何かが気配なく近くに忍び寄っているらしい。

やめろ、俺はとっとと寝てェの。さっきから人の安眠妨害をしてくるのはどこのどいつだ。苛立ちが最高潮に高まり、いよいよ硬く閉ざされていた瞳を開ける。どこぞの赤いアフロだったら一発二発殴ってやろうとさえ思っていた。

俺の目の前にいたのは。


「あ、やっと起きてくれた。」
「……お前か……。」
「なによ、その言い方。折角人が勝負しにきてやってるってのに」
「俺の安らかな時間を邪魔しに、の間違いじゃないのか」

にこにこ笑顔を浮かべながら、俺が横たわるベッドの真横で顔をのぞきこんでいたのは、十代前半の少女。見た目は華奢で、肩甲骨をすぎる長い黒髪を持つ。くるくる動く濃茶の瞳は大きく、それを縁取るまつげは長く、形の良い唇は花のように色づいている。それらがバランスよく配置された顔、彼女は文句のない美少女といえた。
しかし人は外見に騙されてはいけない。こう見えてこの少女は、シンオウ地方の新チャンピオンだ。わかりやすく言えば地方最強。当然、八番目のジムリーダーである俺など、通過点にすぎなかった。はずだった。

「はやく体を起こす!今日は新しい仲間を連れてきたの。ホウエン地方の子なんだよ」
「デンジがジムにいないから家まで探しにきてあげたんだからね!」

うるさいうるさい、耳元で叫ぶな。しっしっと手で追い払う仕草をする。
そうだ、ただの通過点だったはずなのに。なんでこいつはチャンピオンの座についてからも、しつこく俺に構うんだ。勝ちの見えている勝負など面白くないだろうに。少なくとも俺は賞金稼ぎでしかそんなことはしない。
根気よく俺の服を引っ張ってなんとか起こそうとしている少女と視線が合って、思わず目を眇めて言った。

「お前、なんでこんな俺にばっか構うわけ」

ポケモンたちをより強くして一層高みを目指す、というならば、リーグのやつらに相手してもらえばいいだけのこと。リボンをくれる女性や、シールを買える市場ぐらいしか用のないナギサなんかに、いつもいつも顔をみせるのはなぜなんだ。どうせすぐ決着のつくつまらない勝負のために、わざわざ面倒な仕掛けを抜けて俺の元までくるのはどうしてだ。
そう問うと少女は、屈託なく見えて、どこか底の知れない笑みを崩さずに答えた。

「だってわたし、デンジのこと大好きなんだもの」

ちか、はっきりと目の前が眩しくなる。光源は天上の間接照明しかない。
明かりをつけてもぼんやりとした仄暗さの部屋に、太陽光が一瞬射しこんだようだった。暗さに慣れていた目を手で覆って深く息をついた。少女がなにかまた叫んでいるが聞こえないふりだ。今はまだ、眩しすぎる彼女を直視できる自信がない。

(まったく厄介な女だ)
(でも、これだから嫌いになれない)



ストロボライツ

(照らせ劣等感光れ恋心)


舞台設定はダイヤ、主♀はプラチナの光。という若干パラレル。
デンヒカのようなヒカデンのような。